2015/10/26

金木犀


「歩みきてふとしも匂へ山の手の 日の照る坂の木犀の花(太田水穂)」
 
 
 
どこからともなく漂ってくるなんとも言えないふくよかな金木犀の香り。
生け垣の奥、家の曲がり角。
そんな普段は見過ごしてしまうような場所で
黄金色の小さな花は、今を盛りと秋の陽の中で輝いて見えます。
 

幽霊になった男の話をしよう・・・という不思議な書き出しで始まる物語
『星の時計のLiddell』の中で、主人公の夢の中に現れる少女がつぶやきます。
「ああ、 名前を聞いただけでも香りがするみたい
あれは 空気がきれいに澄んでないと花をつけないの
そう、ちょうど今頃の季節に咲くんだわ


 ’80年代に活躍した漫画家「内田善美」は
『星の時計のLiddell』を最後に断筆しました。

10月28日は彼女の生誕日。現在の消息は不明です。

どこから漂ってくるのかわからない
なんとも言いようのない金木犀の香りを嗅ぐたび
わずか10年足らずの陽の中に輝き
咲きぬけていった一人の漫画家を思い出します。
                             

2015/06/20

沙羅の木の花


沙羅双樹しろき花ちる夕風に人の子おもふ凡下(ぼんげ)のこゝろ(与謝野晶子)


沙羅の木(ナツツバキ)


家の軒先
生け垣の向こう
社の境内・・・・

あちらこちらで
沙羅の木が
花を咲かせています。

この花が咲くと、
ああ、
今年もまた
夏が来るなあと思います。







和名「夏椿」と呼ばれる白い花は、一日で散ってしまう儚さから
「沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらわす(平家物語)」と表されました。

いつのころからか
薄く透き通るような白い花弁をそのままに、
まるで、ただそこに置かれたように散るこの花の有り様に
強くこころ惹かれるようになりました。

朝に咲いた花が、夕には落ちるのは儚くもありますが、
また早朝には新たなつぼみが咲き開いてきます。

それは新しい1日の始まり、
今日を生きることへの溢れる喜びを歌っているようにも見えるのです。

 一期一会、今日という日を沙羅の花のように生きていけたらなと思います。

2015/03/10

記憶の狭間


「若き日の夢はうかびく沈丁花 やみのさ庭に香のただよへば(佐々木信綱)」

 
庭椿 霜に逢っていっそう鮮やか


梅、杏、沈丁花...春は香りとともにやってきます。
美濃飛騨こぶし街道もずいぶん寒さが緩んで来ました。















雑踏の中を歩く バスを降りる
目覚めて窓を開ける 行き過ぎる電車を待つ・・

そんなふとした瞬間に、どこからともなく漂ってくる香りに
遠い日のあこがれや夢が呼び起こされて、胸が痛くなるようなことがあります。

冒頭の歌は、そんな心象を見事に切りとって、いつ読んでも、
まるでいま自分がそこに佇んでいるかのような錯覚を覚えます。

香り・匂い・音・メロディ、陽光・風・水・火と土、そして大気
感性を揺さぶるさまざまなものたちは
記憶の狭間を刺激して私たちを原風景へと誘い出します。

ずっとずっと大切にしてきたもの。
すべてのエネルギーを注いで恋焦がれたもの。

追い求めて続けてきたそれらのものは
実は初めからとても近くにあってただ気がつかなかっただけなのかもしれない。

春の宵、ぼ~っとした頭で、ぼんやりとそんなことを思いました。
 

2015/02/07

なぞは謎のまま

「梅の花 香をかぐはしみ遠けども 心もしのに君をしぞ思ふ(市原王)」
(梅の花香に惹かれるように遠く離れているけれど、心はいつも貴方に寄せているのです)
 
待ってたよ クリスマスローズ
雪で覆われていた庭も、いまはスノードロップやクリスマスローズが愛らしい姿を見せてくれています。寒い寒いと言いながらも確かに春はそこまで来ているんですよね。

昨年末に見つけた庭に埋められたおおきな柿「富士山」
実は1月の末に、ちゃっかり何ものかが掘り出して行きました。

その日は明け方からしょぼしょぼ雨が降っていました。朝までは雪に覆われていたのにお昼には雪が解けて、ひょっとして・・と思って見に行ったら、ポッコリと穴があいて柿は消えていました。

 

どこかから見てたのかしら。ほんとにビックリです。
 
聞くところによると、猿は取って食べるだけ。埋めたりしない。騒々しく食べ散らかした跡は猿の仕業だといっぺんで分かるそうです。

おそらく栗鼠かうさぎではないか・・・とのことでしたが、なぞは謎のまま。
来年もやって来てくれることを祈って、楽しみながら待つとしましょう。

2015/01/12

夜中の訪問客

「我が宿の冬木の上に降る雪を 梅の花かとうち見つるかも(万葉集)」


昨年末から思わしくなかった体調が、年明けにがっくりと崩れてしまい、
とんだ新年のスタートになってしまいました。
みなさま、お変わりなくお過ごしでしょうか。



















暮れにドカンと降った雪で覆われてしまった庭も、
このところの陽気でようやく土肌を見せるようになりました。
あー、あったかいって嬉しい!

そういえば昨年末に面白い物を見つけました。
早朝、いつものように庭先を歩いていると何だかこんもりと土が盛ったようになっています。

いつもは見かけないので、不思議に思って何気なく土を平らに慣らそうとしたところ、中から大きなおおきな立派な柿が出てきて、もうほんとうにビックリ!

この柿は、通常では渋くて食べられないために、吊るして干し柿にしたり
そのまま熟するのを待って食べたりする確か「富士山」という種類で
どこをどう間違っても土の中には生らないはず・・・??

さては、夜中に山からの訪問客が密かに柿を埋めて行ったのかしらん・・・
タヌキ?キツネ?イノシシ?それともシカ?
シカやカモシカならコロコロ糞が落ちてるし・・・まさか、家のわんこ達じゃないよね!?

そこで思いだしたのがお伽噺「さるかに合戦」
ああ、そうだった。お猿さんは柿が大好きだった!!
ガッカリさせちゃいけないから、柿は元の場所に埋めておきました。

食べ物のない冬のためにとっておいたはずの大きな柿
ドカンと降った雪が埋めてしまってとりに来れなくなったのか
こうやって埋めたままお猿さんが忘れたのが、新しく芽を吹いて柿の木になるのかしら。